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コラム
2025.11.26 IT資産管理

ITAD(IT資産適正処分)とは?企業が知るべき定義・リスク・実践方法を解説

使用済みのPC、サーバー、スマートフォンをどのように処分していますか? 適切な処分ができていないと、思わぬリスクに直面する可能性があります。データを削除したつもりでも復元される可能性があり、不適切な廃棄は情報漏えい、環境汚染、法令違反につながります。

本記事では、こうしたリスクを回避し企業の信頼性を守るためのITAD(IT資産適正処分)について、定義から実践方法、ベンダー選定までを解説します。情報セキュリティとコスト最適化を両立し、ESG評価の向上にも寄与するITADの全体像を理解し、自社のIT資産管理戦略に活かしてください。

Index

1. ITADとは?定義・背景とIT資産処分の重要性
2. ITADを怠ることで生じるリスクと課題
3. ITAD実施の基本ステップと重要ポイント
4. 信頼できるITAD事業者の選定基準
5. ITADを含むライフサイクル最適化:三菱HCキャピタルITパートナーズのPCLCMサービス
まとめ

1. ITADとは?定義・背景とIT資産処分の重要性

ここでは、ITADの基本概念や注目される背景、市場動向を解説します。

1-1. ITADの意味と対象資産

ITAD(IT Asset Disposition)とは、不要になったIT資産を適切に再利用・廃棄するプロセスを指します。日本語では「IT資産の適正処分」と訳され、「アイタッド」と読みます。
従来の廃棄処分と異なり、ITADは情報セキュリティ、環境配慮、コンプライアンスの3要素を前提としています。単なる機器の物理的処分ではなく、適切なデータ消去、再利用可能な資産の選別、環境負荷を抑えた処分方法の選択までを含む、戦略的な業務プロセスです。

対象となる資産は、PC、サーバー、ストレージ、スマートフォン、タブレット、ネットワーク機器、プリンターなど多岐にわたります。IT資産管理が導入から処分までのライフサイクル全般を管理するのに対し、ITADはその最終段階にあたる処分フェーズに特化しています。すなわち、IT資産管理の一部として、専門的に処分を扱うのがITADです。

IT資産管理については、以下の記事をご覧ください。

IT資産管理とは?必要性や課題・ツールの導入効果について説明

IT資産管理のよくある課題5つ|解決策やツール導入のポイントを解説

1-2. ITADが注目される理由

近年、ITADが企業経営において重視される背景には、次の3つの大きな要因があります。

データ漏えいリスクの深刻化

廃棄予定のIT機器から情報が流出する事故は後を絶ちません。IBMの調査によれば、2025年のデータ漏えいの平均被害額は約444万ドルに達しています。
日本国内でも深刻な状況が続いており、東京商工リサーチの調査によると2024年には上場企業およびその子会社で189件の個人情報漏えい・紛失事故が発生し、4年連続で過去最多を更新しました。
特に「ダンプスターダイビング」(廃棄されたIT機器から情報を窃取する手口)は、サイバー攻撃者にとって低コストかつ効率的な情報収集手段となっています。

参考:
IBM|Cost of a Data Breach Report(参照2025年10月29日)
東京商工リサーチ | TSRデータインサイト |2024年上場企業の「個人情報漏えい・紛失」事故 過去最多の189件、漏えい情報は1,586万人分(参照2025年10月29日)

電子廃棄物(E-Waste)問題と環境規制の強化

世界保健機関(WHO)の統計によれば、2022年には年間6,200万トンを超える電子廃棄物(E-Waste)が発生しました。電子機器には鉛、水銀、カドミウムなどの有害物質が含まれており、不適切な処分は環境汚染を引き起こします。各国で環境規制が強化される中、企業には適正な廃棄処理が法的に義務づけられています。環境負荷を低減する処分方法の選択は、企業の社会的責任を果たすうえでも重要です。

参考:WHO|Electronic waste (e-waste) (参照2025年10月29日)

ESG経営とサーキュラーエコノミー推進

ESG(環境・社会・ガバナンス)への取り組みが評価される時代において、IT資産の適正処分は企業価値を示す要素のひとつです。特にScope3(サプライチェーン全体の温室効果ガス排出量)削減目標を掲げる企業にとって、IT機器のリユースやリサイクルによるCO2削減効果は重要な指標となります。
サーキュラーエコノミー(循環型経済)の実現に向け、ITADは具体的な取り組みとして注目されています。

1-3. ITAD市場の成長と日本の現状

グローバルなITAD市場は急速に拡大しており、市場調査会社Strategic Market Researchによれば、2021年時点で145億ドル規模だった市場は、2026年には212億ドルに達すると予測されています。欧米では既に企業経営における標準的な取り組みとして定着しています。

一方、日本国内ではITADの認知度はまだ発展途上です。2018年に設立された一般社団法人日本ITAD協会(JITAD)は、業界標準の確立や事業者認定制度、ITAD取扱者検定などを通じて普及に取り組んでいます。

2. ITADを怠ることで生じるリスクと課題

ITADを適切に実施しない場合、企業は深刻なリスクに直面します。情報セキュリティ、環境、業務運用の観点から、それぞれのリスクを見ていきましょう。

2-1. 情報漏えい・コンプライアンス違反の危険性

データ消去の不備は、重大な情報漏えいを引き起こします。廃棄予定のハードディスクやSSDには、削除したつもりのデータが復元可能な状態で残っていることが少なくありません。中古市場で購入された機器から企業の機密情報が発見される事例も報告されています。

情報漏えいが発生すれば、顧客や取引先からの信頼を失うだけでなく、損害賠償請求や訴訟リスクにも直面します。欧州のGDPR(一般データ保護規則)では、個人データの不適切な管理に対して最大2,000万ユーロまたは全世界年間売上高の4%という制裁金が科される可能性があります。

日本国内でも個人情報保護法により、個人データの安全管理措置が義務づけられており、違反時には法人に対して1億円以下の罰金が科される場合があります。さらに、個人情報保護委員会の命令に従わない場合や虚偽報告を行った場合には、より重い罰則が適用される可能性もあります。
適切なデータ消去を含むITAD対応は、法令順守の観点からも不可欠だといえるでしょう。

参考:Regulation (EU) 2016/679 (GDPR), EUR-Lex (参照2025年10月29日)

2-2. 環境リスクとESG評価への影響

電子機器に含まれる鉛、水銀、カドミウムなどの有害物質を適切に処理せずに廃棄すると、土壌や地下水を汚染し、生態系に悪影響を及ぼします。不適切なE-Waste処分は企業のCSR(社会的責任)評価を損ない、環境汚染を引き起こした企業として報道されれば、取引停止や投資撤退などの事態に発展する恐れもあります。

ESG投資が拡大する現在、環境への配慮は企業価値を左右する重要な要素です。ITADを通じたCO2削減効果やリユース実績を定量的に示せる企業は、ESG評価で優位性を高めることが期待できます。

2-3. 属人的管理と見えないコスト

ITADやIT資産管理が特定の担当者に依存する属人的な体制では、担当者の異動や退職によって処分対象が不明確な状況に陥りやすく、ITADの3要素(情報セキュリティ、環境配慮、コンプライアンス)すべてにおいて課題が顕在化します。

廃棄すべき機器が倉庫に放置され続ければ、情報漏えいリスクを抱え続けることになります。処分の先延ばしによる保管コストや、IT資産管理台帳と実態の不一致による二重購入といった、見えないコストが企業の生産性を低下させます。
適切なITAD体制を整えることで、こうした隠れたコストの削減が可能になります。

3. ITAD実施の基本ステップと重要ポイント

ITADを効果的に実施するには、体系的なプロセスと各段階での注意点を理解することが重要です。実務に即した流れと、データ消去における判断基準について解説します。

3-1. ITADの実施プロセス概要

ITADは、以下の4ステップで構成されます。各段階で適切な判断と記録を行うことが、リスク管理とコンプライアンス対応の要です。

ステップ1:処分対象資産の棚卸

処分対象のIT機器を正確に把握するため、IT資産管理台帳と照合し、必要に応じてネットワーク上の論理的所在(IPアドレス、MACアドレス)も確認します。その後、機器の種類、型番、シリアル番号、購入年月、使用部署、データの機密度などを記録します。正確な棚卸は、後続のプロセスを円滑に進めるための土台となります。

IT資産の棚卸については、以下の記事でも詳しく解説しています。

IT資産の棚卸しとは?目的や方法・効率化するポイントを解説

ステップ2:評価と判断

棚卸した資産について、再利用(他部署での活用)、寄贈、再販(中古市場での販売)、リサイクル(部品・素材としての再資源化)、廃棄のいずれかを判断します。判断基準には機器の年式、動作状況、市場価値、データの機密度などが含まれます。この段階での的確な判断が、処理効率とコスト最適化に直結します。

ステップ3:データ消去

すべてのデータ保存機器に対し、機密度に応じた適切な方法でデータ消去を行います。消去作業完了後は、必ず証明書を取得します。これは監査や法令対応の場面で、重要な証拠となります。

ステップ4:処理の実行

評価結果に基づいて、再利用、寄贈、再販、リサイクル、廃棄のいずれかを実施します。認定を受けた業者に委託し、環境基準に適合した処理が行われることを確認します。
すべての工程を通じて詳細な記録を残すことが重要です。誰が、いつ、どの機器を、どのような方法で処分したかを文書化し、監査証跡として保管します。

3-2. データ消去方法の選択と証明管理

データ消去には「論理消去」「物理破壊」「磁気消去(デガウス)」の3つの方法があります。データの機密度とコスト、再利用の可否を踏まえて選択します。

論理消去

専用ソフトを用いて、データ領域に無意味な情報を上書きする方法です。米国国立標準技術研究所が定めるNIST SP800-88(データ消去ガイドライン)に準拠した手法がITAD業界では広く採用されています。機器を破壊しないため、再利用や再販が可能で、環境負荷も低い点がメリットです。ただし、故障機器には利用できません。

参考:NIST|Special Publication 800-88 Revision 1: Guidelines for Media Sanitization(参照2025年10月29日)

物理破壊

シュレッダーによる破砕やドリルによる穿孔などで機器を物理的に破壊する方法です。データの復元を完全に防げますが、機器の再利用はできません。故障機器や再利用が不可能な機器に適した方法です。

磁気消去(デガウス)

強力な磁場でデータを破壊する方法です。HDDには有効ですが、SSDやフラッシュメモリには効果がありません。また、デガウス後の機器は動作しなくなるため、事実上は物理破壊と同様です。

消去作業後には、作業日時、対象機器のシリアル番号、使用した方法などを記載した証明書を発行してもらいましょう。GDPRやISO27001などの監査時にも提示が求められる重要な書類です。

データ消去の具体的な手順や注意点については、以下の記事でも解説しています。

法人PC処分時に自分でデータを消去するやり方|危険性やおすすめの方法も

法人用パソコンを安全に処分するには?データ消去を行う方法や注意点を解説

4. 信頼できるITAD事業者の選定基準

企業がITADを実践するうえで、適切な事業者の選定は極めて重要です。本章では、ITAD事業者を評価する際の判断基準と、確認すべきポイントを解説します。

4-1. セキュリティ体制の透明性

データ消去プロセスが明確に説明されているかを確認しましょう。たとえば、先述のNIST SP 800-88などに準拠した方法でデータ消去が行われているか、作業完了後に「作業証明書」が発行されるか、作業場所に監視カメラや入退室管理などのセキュリティ対策が整っているかがチェックポイントです。

また、作業員の身元確認や教育体制も重要な評価軸です。機密情報を扱う作業者がどのような研修・管理下で作業を行っているかを確認することで、事業者の信頼性を見極めることができます。

4-2. 業界団体と認定資格

日本では、一般社団法人日本ITAD協会(JITAD)による事業者認定制度が整備されています。同協会はIT資産の適正処理に取り組む企業を支援し、リユース・リサイクル事業者の育成や業界標準の確立を進めています。

また、JITADはデータ消去ソフトに対する認定制度も設けており、「パーソナルコンピュータ内蔵ハードディスクドライブデータ抹消ソフトウェア」として、定められた基準を満たすソフトウェアを公表しています。たとえば、ブランコ社のソフトウェアもその認定対象に含まれています。 こうした業界団体による認定の有無は、信頼性を測るうえで重要な指標といえるでしょう。

4-3. 実績と処理能力

大手企業との取引実績や年間の処理台数などは、事業者の処理能力と信頼性を評価する重要な情報です。

また、事業年数やサービス提供の継続性も判断材料となります。ITADは一度きりの対応ではなく、継続的なパートナーシップが求められる分野です。安定した経営基盤と長期的な信頼関係を築ける体制が整っているかを見極めましょう。

4-4. サービスの柔軟性と対応範囲

自社のニーズに応じた柔軟な対応が可能かどうかも、事業者選定の重要な要素です。たとえば、オンサイト(自社内)でのデータ消去対応の可否、オフサイト(事業者施設)での処理を含む複数の選択肢を用意しているかなどを確認しましょう。

また、リユース・リサイクル率の開示、処分後の資産がどのように取り扱われるかの透明性なども評価ポイントです。環境配慮やサーキュラーエコノミーへの取り組みを重視する企業にとって、これらの点は特に重要な判断材料となります。

5. ITADを含むライフサイクル最適化:三菱HCキャピタルITパートナーズのPCLCMサービス

これまで解説してきたITADのプロセスやベンダー選定基準を踏まえ、PCの調達から処分までを一元管理できる「PCLCMサービス」について紹介します。

5-1. 調達から処分まで一元管理するPCLCMの特徴

三菱HCキャピタルITパートナーズが提供するPCライフサイクルマネジメント(PCLCM)サービスは、IT資産の調達から処分までを一貫してサポートする統合的な管理ソリューションです。

機器の選定、調達、キッティング(初期設定)、運用支援、資産管理、処分までを包括的にカバーし、資産情報をライフサイクル全体で一元管理できます。これにより、棚卸作業の効率化や、更新・処分の最適なタイミング判断が可能となり、属人的な管理からの脱却を図れます。

PCLCMサービスの全体像とメリットについては、以下の記事で詳しく解説しています。

PCLCMでPCの運用管理を効率化!サポート内容やメリットを解説

5-2. グループ会社との連携によるITAD対応

三菱HCキャピタルITパートナーズは、グループ会社のMHC環境ソリューションズと連携し、国際基準に準拠した論理消去および物理破壊の両方式に対応しています。

データ消去後には「作業証明書」を発行し、監査対応やコンプライアンスの裏付け資料として活用可能です。また、再販価値のある機器は適正価格で買い取ることでコスト削減を支援し、再利用できない機器については、マテリアル素材として資源の循環利用を行っています。

まとめ

ITADは単なるIT資産の廃棄処分ではなく、情報保護、環境配慮、法令遵守を含む戦略的な業務プロセスです。データ漏えいリスクやE-Waste問題への対応、ESG経営の重要性が高まるなかで、適切なITADの実施は企業の競争力にも直結します。本記事で解説したITADの定義、リスク、実施プロセス、事業者選定基準を踏まえ、自社に最適な対応策を構築しましょう。

三菱HCキャピタルITパートナーズのPCLCMサービスは、調達から処分までを一元管理することで、煩雑化するIT資産管理の課題を解決します。データ消去作業証明書の発行、買い取りによる資産価値回収、資源の循環利用などを通じて、セキュリティ・コスト・サステナビリティをバランスよく実現します。

内部リソースに不安がある企業や、法令対応を確実に進めたい企業は、ぜひ当社にご相談ください。

三菱HCキャピタルITパートナーズのPCLCMサービス

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